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永田央(助教授) 分子研リポート2001 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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(1)

研究系及び研究施設の現状 189

分子物質開発研究センター

永 田   央(助教授)

A -1)専門領域:有機化学、錯体化学

A -2)研究課題:

a) 光励起電子移動を利用した触媒反応の開発

b)金属錯体およびポルフィリンを用いた光合成モデル化合物の合成 c) 高効率電子移動触媒を指向した新規金属錯体の開発

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) ポルフィリ ンの光励起電子移動を利用したアルコールの酸 化反応系を開発した。ベンジルアルコール、T E M PO (2,2,6,6-tetramethyl-1-piperidinyloxy, free radical) 、デュロキノンのピリジン溶液に触媒量のポルフィリンを加えて可 視光照射すると、ベンジルアルコールの酸化生成物であるベンズアルデヒドが最大70%の収率で得られた。この反 応は、(1) ポルフィリンからデュロキノンへの光励起電子移動、(2) ポルフィリンカチオンラジカルによるT E MPOの 一電子酸化、(3) (2) で生成したT E MPO由来のオキソアンモニウムカチオンによるアルコールの酸化、の三段階から 成 ると 考 え ら れる 。デ ュ ロ キノ ン は 2 電子 還 元を 受 け て いっ た んテ ト ラ メ チル ヒ ド ロキ ノ ン とな る が 、系中 の T E MPOがテトラメチルヒドロキノンを再酸化するため、デュロキノンが触媒量でも反応は進行する(デュロキノン 20 mol%, T E MPO 200 mol% で最高収率 63% )。高価な T E MPO の使用を触媒量に抑えるためには T E MPO とヒドロ キノンの反応を抑制する必要がある。デュロキノンのかわりに 2,5- ジ -t- ブチル -1,4- ベンゾキノンを用いたところ、 T E MPO 20 mol% で最高 86% の収率を実現できた。

また、ポルフィリンカチオンラジカルとT E MPOの間の電子移動の効率を上げるために、ポルフィリンとT E MPOを共有結合で 結んだ化合物を合成したところ、触媒反応の効率がポルフィリン・T E MPO間の鎖長に依存することがわかった。この系の詳 細な光化学について現在検討中である。

c) ターピリジン N,N’’-ジオキシド(terpyO2)の金属錯体について研究した。T erpyO2はマンガン・鉄・コバルト・ニッケル のそれぞれ2価イオンとビス型(2:1)の錯体を作る。ニッケル・鉄錯体のX線結晶構造解析から、2分子のterpyO2

がそれぞれ meridional 位に3座配位していることがわかった。ターピリジン錯体と異なり、それぞれの terpyO2分子 はC2対称の非平面配座をとっており、錯体全体の対称性はD2となっている。M(III)/M(II)M=Mn, Fe, Ni)の酸化還元 電位は対応するターピリジン錯体と比較して–0.77から –0.24 V 負側にシフトしている。一方コバルト錯体では C o (III)/C o(II)の電位はわずかに( +0.03 V )正側にシフトすることがわかった。

これらのビス型錯体のうち、鉄錯体とコバルト錯体はアセトニトリル中で一部配位子が解離して溶媒が配位することがE S I- MSの結果から示唆された。そこで、3元系錯体の性質を調べる目的でterpyO2・2座配位子(2,2”-ビピリジンなど)・過塩素酸 鉄(II)を1:1:1で混合した溶液の電気化学応答を測定したが、錯体自体が不安定であるか、またはterpyO2のビス型錯体と 2座配位子のトリス型錯体の混合物の応答が得られるのみであった。以前にターピリジンを含む3元系錯体を効率良く合成 する方法としてターピリジンと2座配位子をメチレン鎖で結んだ配位子を報告したが、ジオキシドの場合も同じようなアプロー チが必要であると考えられる。

(2)

190 研究系及び研究施設の現状

また、これらの錯体と同様に、低い酸化還元電位を持ちかつ配位環境がターピリジンと類似している錯体を得ることを目的 として、ターピリジンのピリジン環を1つまたは2つピロール環で置き換えた配位子を開発した。これらの配位子はルテニウム と安定な錯体を形成することがわかった。ピロール環1つの配位子についてルテニウム錯体のX線構造解析を行い、2分子 の配位子がそれぞれmeridional位に3座配位していることがわかった。配位子はほぼ平面構造で、ビス(ターピリジン)錯体 と構造的には類似している。この錯体の酸化還元電位はルテニウムビス(ターピリジン)錯体にくらべて1 V 負側にシフトして おり、当初狙った通り低い酸化還元電位を持つ錯体が得られた。なお、本配位子は第一遷移金属とは安定な錯体を形成し にくいことがわかった。一方、上述のterpyO2は鉄・マンガン・コバルト・ニッケルとは安定な錯体を形成するが、ルテニウムと 反応させるとオキシドが脱離してターピリジン錯体のみが得られてしまう。従って、これらの配位子は金属の種類に関して相 補的な機能を持っていると言える。

B -1) 学術論文

K. ITO, T. NAGATA and K. TANAKA, “Synthesis and Electrochemical Properties of Transition Metal Complexes of 2,2’:6’,2”- Terpyridine 1,1”-Dioxide,” Inorg. Chem. 40, 6331 (2001).

C ) 研究活動の課題と展望

本年度は主に研究課題のc)に力を入れて取り組んできた。これは分子物質開発研究センターの開発課題研究であるが、本 年度までの結果でこの課題についてはある程度の見通しがついたと考えている。来年度前半を目処に、課題提案者の田中 晃二教授と協力してこれまでの結果をすべて論文発表し、本課題研究を完了する計画である。

研究課題のa)については、前年度までに還元反応を開発したのに対して、今年度は酸化反応の開発を行った。まだ効率の 向上や反応機構の理解に関して不満足な点は残されているものの、実際に機能する系を見つけたことの意味は大きい。人 工光合成系を設計するための役者は揃ったことになる。ただし、昨年度の「分子研リポート」にも書いた通り、これらの反応系 はかなり複雑であり、さらに組み合わせて大きな反応システムを組み上げようとするとさまざまな干渉が起こってくる。 実際、研究課題b)に関連して「多段階レドックスポリマー」を利用した光合成モデル系を作るべく努力したが、反応系同士の 望ましくない干渉のために意図した機能が実現できなかった(このため上では成果として報告していない)。干渉をできるだ け小さくする方策を現在検討している。個々の反応系ごとにアドホック的な方策をとるだけにとどまらず、できるだけ一般性の ある原理を開拓したいと考えている。

参照

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